不動産市場は常に変化しており、賃貸オーナーにとって家賃の見直しは避けられない課題となっています。
経済情勢の変化、地域の発展、そして物件の維持管理コストの上昇など、様々な要因が家賃値上げの検討につながります。
1. 3つの家賃値上げの正当な理由
家賃値上げには「正当な理由」が必要です。借地借家法第32条に基づき、以下の3つが主な正当理由として認められています。
1.固定資産税などの負担増加
固定資産税は3年ごとに見直されます。地域の再開発や人口増加により地価が上昇すると税金も増加します。また、修繕積立金や管理費といった固定費の値上げもよくあることです。
そして、物件を維持するための支払いが増加することで、安定的な賃貸経営が圧迫され、その維持が困難になっている場合ならば家賃の値上げは必要不可欠といえます。
2.不動産の資産価値上昇
周辺地域の発展により物件の価値が上がると、適正家賃も上昇します。物件価値の上昇に見合った家賃の値上げを当然に行わないと、上記の税負担の上昇にも対応できなくなります。
3.周辺相場との乖離
近隣の同種物件と比較して、現在の家賃が明らかに低い場合は値上げの理由となります。入居時は近隣の同種物件の家賃と同水準に設定していたとしても、物価上昇などの経済事情の変化などから、いつの間にか周辺相場を下回っていることがあります。
特に周辺が再開発されて人気エリアになった場合に家賃水準は上昇しますが、家賃の見直しを長年してこなかった物件がこれに該当します。
家賃の値上げができないケース
家賃の値上げに当たってトラブルを回避するためにも、家賃の値上げができないケースも確認しておきましょう。
家賃収入を増やすためだけの値上げ
正当な理由がなく、家賃収入を増やすためだけの値上げは、基本的に「不当な値上げ」と解されてしまい、法的トラブルに発展する可能性が高いです。
契約内容と異なる家賃の値上げ
例えば、現入居者との間で結んだ賃貸借契約書で「一定期間は家賃の増減を行わない」という条件が付されていれば、その期間内において家賃の値上げはできません。
その期間内に固定資産税などの負担が増加したり、周辺相場が上がったとしても、当事者間で納得して締結した契約内容を反故にすることはできません。
周辺相場を大幅に上回る家賃の値上げ
周辺相場が上昇しているので、家賃を値上げするのは問題ないですが、その値上げの程度が周辺相場を大幅に上回るならば、その値上げは認められません。
3. 家賃の値上げ交渉のプロセスとリスク
家賃値上げは単純なプロセスではありません。以下の手順を踏む必要があります。
値上げ交渉のプロセス
- 書面による通知
- 入居者との交渉
- 合意形成
- 契約更新または変更
しかし、このプロセスにはリスクも伴います。
値上げ交渉のリスク
- 入居者との関係悪化
- 退去増加による空室率上昇
- 法的トラブルの可能性
入居者との交渉が決裂して、法的トラブルになれば、裁判所で手続きして調停で話し合うか、訴訟に発展することもあります。訴訟に発展してしまうと、解決するに当たっては時間がかかりますし、お金もかかります。
また、入居者が家賃の値上げに合意せず、賃貸オーナーも「値上げ後の家賃しか受け取るつもりはない」となった場合、入居者は「供託制度」を利用して供託所(通常は各地方法務局)に現行の家賃を預け続ければ、家賃の不払いに該当しないことになります。
つまり、家賃の不払いを理由に契約の解除や立ち退きを迫ることはできないことになります。
このように面倒な法的トラブルに極力発展しないようにするため、以下の「成功する家賃の値上げ交渉のポイント」を抑えておきましょう。
4. 成功する家賃の値上げ交渉のポイント5選
家賃値上げに伴うリスクを回避して、交渉を成功させる5つのポイントを挙げます。
1.データに基づく説明
周辺相場や固定資産税の増加など、客観的なデータを提示して説明します。入居者からしてみれば、家賃は増額されないに越したことはありません。
だからこそ、根拠を示したうえで、法に基づいた正当な主張をしていることを正確に伝えることが入居者からの承諾につながります。
2.段階的な値上げ
一度に大幅な値上げを行うのではなく、複数回に分けて段階的に行うことで入居者の負担を軽減するのも、家賃値上げの交渉を成功させる方法のひとつです。
というのも、家賃の値上げで増える入居者の負担は、家賃の値上げ分だけでなく、更新料や、場合によっては家賃保証会社の保証料や火災保険料が値上がりする場合もあります。
そのあたりの事情も踏まえ、入居者の負担を軽減するために複数回に分けて段階的に値上げすることもアリだと思います(退去されて家賃収入がなくなるよりは良しとしましょう)。
3.入居者へのメリット提示
交渉事は何事もそうですが、相手方はメリットがないと提案された内容に承諾してくれる可能性は低いものです。
だから、家賃の値上げと同時に設備の更新や共用部分の改善、次回更新料を無料にする、値上げ時期の後ろ倒しなど入居者にとってのメリットを提示すると、承諾が得られやすくなります。
4.適切なタイミング
家賃を値上げするタイミングに特段の決まりはありません。必要になった時が家賃値上げのタイミングです。
とはいえ、家賃を値上げするタイミングとして、①現在の入居者が退去して、新たな入居者を募集する際に値上げする場合と、②現在の入居者に対して、例えば契約更新時に合わせて値上げ交渉する場合が多いようです。
①について、最近は不動産価格の上昇により住宅購入をあきらめて賃貸を選択する傾向があります。その影響で賃貸需要が強まり、周辺地域の家賃相場がこれまでよりも上昇しているなら、家賃を値上げしても入居が決まることが多いです。
②について、家賃値上げの理由に正当性があれば(固定資産税、不動産価値、周辺相場の上昇)、借地借家法では家賃増額請求が認められています。このように法的に認められた権利ですから、例えば周辺の家賃相場が上がっているような状況であれば、家賃は堂々と上げるべきといえます。
5.コミュニケーションの重視
一方的な通知ではなく、入居者との対話を重視し、互いの立場を理解し合うことが重要です。
とはいえ、賃貸オーナーに立場からすれば、現在の入居者に対して家賃値上げをする場合だと、「法定更新」は避けた方がいいのかもしれません。
法定更新というのは、家賃値上げという契約内容の更新に関する同意が契約終了までになされなかった場合、借地借家法に基づいてこれまでの契約内容・条件で契約が自動で更新されることで、更新後は期間の定めのない契約となります。
つまり、交渉が長期化してしまうことになるので、賃貸オーナーに不利な結論になりがちです。
だから、コミュニケーションを重視しつつも、早期の妥協点を見出すなどして、短期決戦の心づもりをしておくことが肝要です。
5. 家賃の値上げについての結論と次のステップ
家賃値上げは賃貸経営において避けられない課題ですが、適切な理由と丁寧な交渉プロセスを踏むことで、入居者との良好な関係を維持しながら実現することが可能です。
次のステップとして、以下のアクションをお勧めします。
- 物件の現状と周辺相場を詳細に分析する
- 値上げの必要性と金額を慎重に検討する
- 入居者とのコミュニケーション計画を立てる
- 必要に応じて専門家(不動産鑑定士や弁護士、不動産管理会社など)に相談する
適切な家賃設定は、長期的な賃貸経営の成功につながります。入居者の満足度を維持しつつ、適正な収益を確保するバランスを見極めることが、賃貸オーナーにとって重要な課題となるでしょう。
逆に言えば、家賃設定が不適切であれば、退去者が増えて家賃収入が減少することになります。
つまり、「適切な家賃」を把握して設定することが、家賃値上げ交渉の「肝」になると言っても過言ではありません。
- 現状に即した適正な家賃水準はいくらなのか?
- その適正な家賃水準と、現状の家賃水準との乖離をどのように埋めるか?
- 家賃値上げの正当な理由に該当する「不動産の資産価値上昇」「周辺相場との乖離」が発生しているのか否か?
- 値上げ交渉で必要になる「周辺相場の客観的なデータ」をどうやって準備するのか?
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