「地価上昇」を理由に家賃の値上げを請求された場合の対応を解説

この記事を書いている時点(2024年10月)及び更新した時点(2026年2月)は、利便性に富む都心部を中心に「地価の上昇」の傾向が見受けられます。

そして、この地価上昇を理由に、賃貸物件の賃貸人(オーナー側)が、賃借人(テナント側)に対して、その物件の契約更新のタイミングで家賃の値上げを言い渡すことが想定されます。

なぜ「地価の上昇」が家賃の値上げにつながるのでしょうか?また、賃借を続けようと思ったら、家賃の値上げに応じるほかないのでしょうか?交渉の余地はないのでしょうか?

この点について解説します。

地価の上昇は「家賃値上げ理由になる」

借地借家法32条1項は、建物の賃料が次の(1)~(3)の事情がある場合には、契約の条件にかかわらず、当事者が将来の賃料増減を請求することができる旨定めています。

(1)土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
(2)土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動
(3)近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、

地価の上昇は条文が規定する場合に当たりますので、現実に上昇している場合、家賃値上げの理由となり得ます

なお、家賃の値上げができないケースとしては、

  • 上記のような正当な理由がなく、単に家賃収入を増やすためだけの値上げは「不当な値上げ」とされます。
  • 現行の賃貸借契約で「一定期間は家賃の増減を行わない」という条件が付されていれば、その期間内に固定資産税などの負担が増加したり、周辺相場が上がったとしても、値上げはできません。
  • 近傍同種の家賃相場が値上がりした程度以上の大幅な値上がりはできません。

家賃の値上げに応じないで、賃借することはできるの?

賃借し続けること自体はできます。

借地借家法には、合意による更新をしない場合も、従前と同じ条件で現在の契約が更新されるという「法定更新」があります。

法定更新というのは、家賃値上げという契約内容の更新に関する同意が契約終了までになされなかった場合、借地借家法に基づいてこれまでの契約内容・条件で契約が自動で更新されることで、更新後は期間の定めのない契約となります。

この法定更新により、オーナー側はテナントが値上げに応じなくても、賃貸借契約を満了時に終了させたり一方的に解除するようなことはできません。

家賃値上げの要求に対して交渉の余地はないの?

交渉の余地もあります。

特別な資料や根拠がなくても、個人的な理由(例.物価が上がっているけど収入が増えないので経済的に余裕がなく、家賃の値上げも少額しか応じられないといったもの)でも、交渉材料とならないわけではありません。

ただ、交渉が折り合わない場合、オーナー側から正式に賃料増額請求を受ける可能性があります。

正式に賃料増額請求を受けたら、その額を支払うしかないの?

一定の時期までは、これまでの賃料額の支払いで構いません。

賃料増額請求は一方的な意思表示で適正賃料額への変更の効力が発生するものですが、ただし、当事者双方が納得せずに争いがある場合、いくらが適正な賃料額なのかは調停や裁判で決まります。

つまり、オーナー側がテナント側に対して、口頭や内容証明郵便で一方的に通知を送ったとしても、賃料が増額されるわけではありません。

そして、当事者間で協議が整わない場合、増額請求を受けても増額を正当とする裁判が確定するまで、テナント側は相当と認める額を供託所(通常は各地方法務局)に支払うことで足ります。

増額請求を受けても、これまでの賃料額を支払えば問題ありません(これを「供託制度」と言います)。

ただ、後々、調停や裁判の場で賃料増額(オーナー側の主張)が認められた場合、効果は増額請求を受けた時点にさかのぼって、不足額に年1割の利息を付して支払う必要が発生する点は意識しておかないといけません。

先々のことを考えて「オーナー側に貸しを作る」のもアリかもしれません

この記事を作成している時点での経済状況をみると、利便性に富む都心部を中心に「地価の上昇」はあると予想されますし、これを理由とした家賃の増額を認める条件が整いやすい状況です。

そして、オーナー側の増額請求が認められた場合、期間をさかのぼって利息を付した支払いが発生するリスクを考えるならば、当初の家賃の値上げ交渉の段階で歩み寄った検討をした方がいいかもしれません。

もちろん、現行の家賃水準から大幅な値上げであるならば、「抵抗」する価値はあるかもしれません。

ただ、値上げの程度が少額と判断されるのでしたら、オーナー側の提案に応じることを検討しても良いのでは?

というのも、オーナー側の要請に応じて、家賃を値上げしたという実績を残せば、「オーナー側に貸しを作った」として、将来の大幅な値上げ要請があった際に有利な交渉ができるかもしれないからです。

オーナー側との交渉にあたって「準備」は必要

なお、オーナー側との交渉に何の準備もなく臨んでも、話は平行線のままで、場合によってはトラブルが大きくなるかもしれませんし、裁判となるとお互いに負担も大きくなります。

  • オーナー側が家賃の値上げを言い渡してきた根拠の検証
  • 該当物件の周辺の適正な家賃相場は、どの程度なのかの確認
  • オーナー側が提示した値上げ後の家賃水準の是非

このあたりの事項をしっかりと抑えて、オーナー側と同じ情報量を確保した上で、交渉することがトラブル回避のために肝要です。

場合によっては、このような情報を示すことでオーナー側が家賃の値上げをあきらめる(もしくは値上げの程度を抑える)ケースもあり得ます。

値上げ通知を受けたときに確認すべきポイント

家賃の増額請求を受けた場合は、次の点を一つずつ確認してみてください。

  1. 値上げ理由は、具体的な資料や根拠に基づいているか
  2. 現在の家賃は、近隣相場と比べて妥当な水準か
  3. 契約書に、特別な取り決めや制限はないか
  4. これまでの契約経緯や居住状況に、考慮すべき事情はないか

これらを整理するだけでも、「応じるべきか」「交渉すべきか」「拒否してよいのか」の判断材料になります。

家賃の増額請求は、決して珍しいものではありません。
しかし、通知を受けたからといって、すぐに応じる必要はありません。重要なのは、

  • 値上げ理由が客観的で合理的か
  • 現在の家賃が本当に不相当と言えるのか

を、資料と事実に基づいて確認すること。とにかく安易に妥協しないことが大事です。

納得できない場合は安易に合意せず、専門家に相談するという選択肢もあります。冷静に状況を整理することが、結果的にご自身を守ることにつながります。

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【補足】家賃の値上げ通知が来たら確認|借主が「応じる・交渉する・拒否する」を判断するチェックリスト

地価上昇を理由に家賃値上げの通知を受け取ったら、どんな人も不安になると思います。

「断ったら退去させられるのでは?」
「言われたとおり応じるしかないのでは?」

ですが、家賃の値上げは感情で判断すると失敗します。大切なのは自分のケースではどう判断すべきかを整理することです。

そこで、借主が自分で状況を整理して、家賃値上げの通知に「応じるべきか」「交渉すべきか」「拒否してよいか」を判断するためのチェックリストをまとめました。

STEP1|値上げ理由は「数字」で説明されていますか?

まず確認すべきは、値上げ理由の具体性です。以下に当てはまるものにチェックを入れてください。

  • □ 地価や賃料相場について、具体的なデータが示されている
  • □ 「近隣の同種物件と比べて」という説明がある
  • □ 固定資産税・都市計画税など、貸主負担の増加が数字で示されている
  • □ 「経営が厳しい」「将来不安」といった感覚的な理由だけではない

判定の目安

  • チェックが 2つ以下: 値上げ理由は弱く、交渉や拒否の余地があります。
  • チェックが 3つ以上: 一定の合理性があり、内容を慎重に確認する必要があります。

「地価が上がったから」という一文だけの場合、この時点で説明不足と考えて差し支えありません。

STEP2|今の家賃は相場と比べてどうですか?

次に重要なのは、現在の家賃水準です。

  • □ 同じエリア・築年数・広さの物件を自分で調べた
  • □ 自分の家賃は、相場より明らかに安い
  • □ すでに相場並み、または高めである
  • □ 設備や管理状態を考えると割高に感じる

判定の目安

  • 相場よりかなり安い: 値上げが認められやすい立場です。
  • 相場並み、または高め: 値上げの正当性は弱くなります。

相場を確認せずに結論を出すのは危険です。最低限、賃貸情報サイトで近隣物件を数件確認しておきましょう。

STEP3|建物や設備に「価値の上昇」はありましたか?

家賃は、土地だけでなく建物や居住環境の価値とも結びつきます。

  • □ 大規模修繕や外壁改修が行われた
  • □ エレベーター、防犯設備、共用部が改善された
  • □ 自分の部屋の設備が更新された
  • □ 何年も特に変化はない

判定の目安

  • 改善がある: 値上げ理由として一定の加点要素になります。
  • 改善がない: 地価上昇だけを理由にした値上げは通りにくくなります。

「何も変わっていないのに家賃だけ上がる」のかどうかを冷静に見てください。

STEP4|契約内容とこれまでの経緯を確認します

次は、契約と関係性の確認です。

  • □ 契約書に賃料改定に関する特約がある
  • □ 長期間、家賃が据え置かれている
  • □ 更新時期と重なっている
  • □ これまでトラブルなく長く住んでいる

長期入居で安定している借主であることは「交渉材料」になります。単なる数字だけでなく「これまでの経緯」も無視できません。

STEP5|拒否した場合の「現実的なリスク」を整理します

最後に、理屈とは別の現実を考えます。

  • □ すぐに退去するつもりはない
  • □ 裁判や調停に発展しそうな雰囲気はない
  • □ 引っ越し費用と値上げ額を比較できる
  • □ 住み続けることを優先したい

ここで大切なのは、「拒否できるか」と「拒否するのが得か」は別だという点です。

最終判定|あなたはどの立場ですか?

A|値上げに応じてもよいケース

  • 現在の家賃が相場よりかなり安い
  • 値上げ理由が具体的で納得できる
  • 今後も住み続けたい

B|交渉すべきケース

  • 理由はあるが説明が一方的
  • 値上げ幅が急すぎる
  • 段階的な増額なら検討できる

C|拒否してよいケース

  • 根拠が曖昧
  • 家賃はすでに相場水準
  • 設備や管理の改善が見られない

 

B・Cの場合、書面で値上げ理由の具体的説明を求めましょう。一方、判断が難しい場合、不動産鑑定士や弁護士など、第三者に相談するのも有効です。

大事なことは感情的に決めないこと。整理してから判断することが結果的にご自身の立場を守ります。

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