離婚に際して行われる「財産分与」とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いてきた財産を公平に分けるための手続きです。
話し合いでまとまる場合もありますが、調停や裁判になると、分けるべき財産の「価値」を客観的に整理する必要が生じます。その際に、不動産の評価を専門とする私たち不動産鑑定士に依頼が来ることがあります。
今回ご相談を受けた案件では、分与対象として「マンション」と「建物」が挙げられていました。しかし、私はそこで少し違和感を覚えました。不動産は空中に浮いて存在することはできません。建物が存在している以上、その建物が建っている敷地を利用する権利が必ず付随しているからです。
詳しくお話を伺うと、その建物は結婚後に始めた店舗であり、土地は自己所有ではなく借地とのことでした。ご依頼者は「土地は借り物だから自分たちの財産ではない」「財産分与の対象外だろう」と考えていたようです。しかし、これは実務上よくある誤解です。
確かに、土地の所有権はありませんが、借地権という権利自体は立派な財産的価値を持ちます。借地権は担保として評価されにくい場合があるため、「価値がない」と思われがちですが、相続税評価においても資産として取り扱われる権利です。したがって、財産分与においても無視してよいものではありません。
この点を説明すると、依頼者である奥様は大変驚かれました。さらに、その地域の路線価上の借地権割合が60%であると知り、「土地の半分相当の価値も分けられるのではないか」と期待されたようでした。
ただし、ここで注意が必要です。借地権割合はあくまで相続税評価などで用いられる一つの目安であり、すべての場面でそのまま使える万能な数字ではありません。
実際に契約内容を詳しく確認したところ、この借地権は事業用定期借地権であり、しかも契約期間の満了が目前に迫っていました。
事業用定期借地権は更新が認められず、期間満了とともに原則として更地返還となります。普通借地権のように借地人が強く保護される権利とは性質が大きく異なります。
このような借地権の場合、残存期間が短ければ短いほど経済的価値は急速に低下します。極端なケースでは、形式上は借地権が存在していても、実質的な価値はほとんど認められないこともあります。
依頼者は一度は喜ばれましたが、現実的な評価結果をお伝えすると落胆されました。ただ、「後から土地の扱いで揉めるより、最初に整理できてよかった」と納得していただけたことが印象に残っています。
この考え方は、財産分与に限らず、遺産分割や事業承継、売却の場面でも共通します。建物がある場合、その敷地権が何であるかを必ず確認する必要があります。そして、それが借地権であれば、契約内容、残存期間、地代水準、利用状況などを総合的に見なければ、本当の価値は見えてきません。
不動産鑑定は、単に数字を当てはめる作業ではありません。当事者が納得できる判断材料を整理し、感情的な対立を避けるための「共通の物差し」を示す役割があります。この点をご理解いただいたうえで、不動産鑑定を活用していただければと思います。
※ 上記について守秘義務上、多少内容をアレンジしておりますのでご了承ください。