日本の人口減少に伴い、空き家の増加は避けられない社会問題となっています。
2018年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家数は約849万戸に達し、空き家率は13.6%に上昇しましたが、この傾向は今後も続くと予測され、2033年には空き家率が30%を超えるという推計もあります。
そこで、2015年に施行された「空き家等対策の推進に関する特別措置法」に加え、2023年12月には同法の改正法が施行され、より包括的な対策が可能になりました。
本稿では、これらの最新の法改正を踏まえ、空き家問題への対応策を詳しく解説します。
空き家の危険性と法的措置
空き家を放置することで生じる主なリスクは以下の通りです。
- 建物の急速な劣化
- 防犯上の問題(犯罪の温床になる可能性)
- 景観の悪化
- 衛生状態の悪化(害虫の発生など)
特に深刻な場合、「特定空き家等」に認定され、固定資産税の増税や行政による強制的な解体などの措置が取られる可能性があります。
2023年の法改正では、「管理不全空き家」という新たな区分が設けられ、問題が深刻化する前の早期介入が可能になりました。
5つの空き家対策の選択肢
① 自治体等への寄付
2023年の法改正により「空き家等活用促進区域」が創設され、特定の地域では寄付がより受け入れやすくなる可能性があるため、自治体への寄付は一見魅力的な選択肢に思えますが、実現は容易ではありません。
詳しく、そしてわかりやすく説明するため、空き家の自治体への寄付についてのデメリットを、そのメリットとともにまとめます。
自治体等への寄付のメリット
(1) 管理負担の軽減:
- 空き家の維持管理や税金の支払いから解放
- 精神的な負担も軽減
(2) 社会貢献:
- 寄付された空き家が公共施設や福祉施設として活用され、地域社会に貢献
- 地域の活性化や住宅不足の解消につながる可能性
(3) 税制優遇:
- 所得税控除や相続税の軽減などの税制優遇措置が受けられる場合アリ
(4) 地域の景観改善:
- 放置された空き家による景観悪化を防ぎ、地域の魅力向上に寄与
自治体等への寄付のデメリット
(1) 寄付の受入れ難しさ:
- 自治体に寄付受入義務はなく、様々な要件から実現が容易ではない
- 空き家の状態や立地によっては、寄付が受け入れられない可能性アリ
(2) 条件交渉の複雑さ:
- 寄付の条件について自治体との交渉が必要となり、時間と労力がかかる場合アリ
(3) 寄付後の用途制限:
- 寄付後の空き家の使用目的が所有者の希望と異なる可能性アリ
(4) 近隣住民への配慮:
- 寄付によって物件の用途が変わる場合、近隣住民との調整が必要になる可能性アリ
(5) 手続きの煩雑さ:
- 寄付契約の締結や所有権移転登記など、複雑な手続きが必要
空き家の自治体への寄付は、管理負担の軽減や社会貢献といったメリットがある一方で、実現の難しさや手続きの複雑さなどのデメリットもあります。
例えば、東京都世田谷区では、土地・建物が一体で寄付されること、抵当権等の権利関係がないこと、などの条件があり、受入要件が厳しく実現は容易ではありません。
また、地域のNPOや福祉団体に寄付することで、コミュニティスペースや福祉施設として活用される可能性がありますが、団体にとって利用価値や換金性がある物件でなければ成立は難しいでしょう。
寄付を検討する際は、これらの点を十分に考慮し、専門家や自治体と相談しながら慎重に判断することが重要です。
② リノベーションして居住
空き家をリノベーションして自身や親族が住む選択肢も考えられます。
リノベーションして居住のメリット
(1) コスト削減:
- 新築より総額費用を抑えてマイホームを手に入れられる可能性が高い
- 価格の安い空き家をベースにすることで、建物にしっかり費用をかけられる
(2) 補助金・助成金の活用:
- 多くの自治体が省エネ・バリアフリー改修に対して補助金や助成金を提供している。例えば、神戸市では①省エネリフォーム促進事業(高性能断熱材など次世代省エネ建材の効果実証を支援)、②バリアフリーリフォーム(要介護者等向けに上限20万円の補助金)、③住宅改造助成事業(高齢者や障害者向けのバリアフリーリフォームに最大100万円の助成)、④耐震改修補助制度(戸建住宅等の耐震改修設計や工事に対する補助)を実施
- 国土交通省のライフサポート推進事業では、既存住宅の性能向上リフォームに対して費用の一部を支援
これらの制度を活用することで、リノベーションのコストを抑えることができます。
なお、これらの補助金や助成金は、自治体ごとに条件や金額が異なる場合がありますし、予算に限りがあるので早めに申請することが重要です。
また、上記金額を含めた補助・助成内容は、本記事作成時点のものです。
(3) カスタマイズ性:
- 自分好みの住空間を作り出せる
- おしゃれにリノベーションできる可能性が高い
(4) 環境への配慮:
- 既存の建物を活用するため、環境負荷が低い
- 解体・新築と比べて地球環境保護につながる
(5) 空き家のリスク軽減:
- 特定空き家認定による固定資産税増加のリスクを回避できる
- 不法投棄や不法占拠、倒壊による損害賠償などのリスクも軽減できる
(6) 居住性の向上:
- 耐震性や断熱性能の強化により、安全で快適な住環境を得られる
- エネルギー効率の向上による光熱費の削減が期待できる
リノベーションして居住のデメリット
(1) 予期せぬ追加コスト:
- 工事中に想定外の問題が発見され、追加費用が発生する可能性アリ
(2) 既存建物による制約:
- 既存の建物構造による制約があり、完全に自由な設計ができない場合アリ
(3) 時間と労力:
- 計画から完成までに新築以上の時間がかかる可能性アリ
- 業者選びや設計の打ち合わせなど、多くの時間と労力が必要
(4) 隠れた問題:
- 見えない部分の劣化や問題が完全には把握できないリスク
(5) 将来的な維持管理:
- 新築と比べて、将来的な修繕や維持管理のコストが高くなる可能性アリ
リノベーションして居住することは、コスト面や環境面でメリットが大きい一方で、予期せぬ問題や制約にも直面する可能性があります。個々の状況や優先順位に応じて、慎重に検討することが重要です。
なお、2023年の法改正により、空き家等管理活用支援法人制度が創設されましたが、これにより、NPOなどの民間団体がリノベーションや管理のサポートを行う可能性が広がっています。
③ 空き家のまま管理
災害時の避難場所として、または将来の利用を見据えて空き家を維持管理する方法もあります。
空き家のまま管理のメリット
(1) 将来の選択肢を残せる:
- 空き家を維持することで、将来的な利用や売却の選択肢を残すことができる
- 例えば、子どもが独立した後に戻ってくる可能性や、別荘として使用する可能性などを考慮できる
(2) 災害時の避難先として活用可能:
- 近年の自然災害の増加を考えると、空き家を災害時の避難先や一時的な住まいとして確保できることは大きなメリット
(3) 思い出や家族の歴史を保存:
- 家族の歴史や思い出を形として残すことができる
(4) 資産価値の維持:
- 将来的な売却や賃貸の可能性を考えて、適切に管理することにより不動産としての資産価値を維持できる
空き家のまま管理のデメリット
(1) 継続的な管理コストの発生:
- 空き家を適切に維持するには定期的な点検や修繕が必要
- これらにかかる費用は継続的に発生するので、所有者の経済的負担となる
(2) 防犯・防災上のリスク:
- 不法侵入や放火などの犯罪のターゲットになりやすい
- 火災や水漏れなどの事故が発生しても、早期発見が難しくなる
(3) 近隣トラブルの可能性:
- 雑草の繁茂や害虫の発生など、近隣住民とのトラブルの原因になる可能性アリ
(4) 固定資産税の負担:
- 空き家であっても固定資産税は課税されます
- さらに、特定空き家等に認定されると固定資産税の軽減措置が適用されなくなり、税負担が増加する可能性アリ
(5) 劣化の進行:
- 定期的なメンテナンスを実施しても使用していない分、建物や設備の劣化が進みやすくなる
- 長期間放置すると、大規模な修繕が必要になる可能性アリ
空き家の管理に際しては、新たに創設された空き家等管理活用支援法人を活用することで、より専門的な管理サービスを受けられる可能性があります。
④ 賃貸物件として活用
立地条件が良好な場合、空き家を賃貸物件として活用できますし、空き家等活用促進区域内であれば、賃貸活用に対する支援策が充実している可能性があります。
賃貸物件として活用のメリット
(1) 安定した収入源の確保:
- 毎月の賃料収入が得られるため、安定した収入源になる
- 空き家の維持管理費用を賄うだけでなく、追加の収入源としても期待できる
(2) 資産価値の維持:
- 入居者が住むことで、定期的な清掃やメンテナンスが行われるため、建物の劣化を防ぎ、資産価値の維持につながる
(3) 将来の選択肢を残せる:
- 賃貸として活用しながらも、将来的に売却や自己使用の選択肢を残すことができる
(4) 防犯面でのリスク軽減:
- 人が住むことで、空き家特有の防犯上のリスクが軽減
(5) 税制面でのメリット:
- 賃貸物件として活用することで、固定資産税の軽減措置が継続される可能性アリ
- 賃貸経営に関連する経費を税金から控除できる場合アリ
賃貸物件として活用のデメリット
(1) 初期投資の必要性:
- 賃貸可能な状態にするためのリフォームやリノベーション費用が必要
(2) 貸主としての責任と義務:
- 入居者とのトラブル対応や、建物の修繕義務など貸主としての法的責任や義務が発生
(3) 継続的な管理コスト:
- 定期的な修繕や設備の更新、管理会社への委託費用など、継続的なコストが発生
(4) 収入の不安定性:
- 空室期間中は収入が得られず、また賃貸市場の変動により家賃収入が減少するリスク
(5) 税務処理の複雑化:
- 賃貸収入に関する確定申告が必要で、税務処理が複雑
⑤ 早期売却
利用予定がない場合、早期売却が最も推奨される選択肢です。
2023年の法改正により、所有者不明の空き家に対しても財産管理人制度の活用が可能になり、相続問題などで売却が難しかった物件も、適切に処理できる可能性が高まっています。
早期売却のメリット
(1) 資金の早期確保:
- 必要な資金を迅速に確保できる(資産の流動化)
- 例えば、債務の返済や新しい住居の購入、事業資金の調達などの緊急の資金需要に対応
(2) 維持管理コストの削減:
- 空き家の維持管理にかかる費用(固定資産税、修繕費、管理費など)を早期に削減
- 長期保有によるこれらのコスト累積を回避
(3) 将来的な価値下落リスクの回避:
- 不動産市場の変動や建物の経年劣化による価値下落リスクを最小限に抑制
- 特に、今後の市場悪化が予想される場合、このメリットは大きい
(4) 心理的負担の軽減:
- 売却に関する不安や悩みから早くに解放
- 特に相続物件など、管理が負担になっている場合はこの効果が大きい
早期売却のデメリット
(1) 売却価格の低下:
- 早期売却を優先すると、適正価格よりも低い金額で売却せざるを得ない可能性アリ
- 通常の売却プロセスよりも7〜8割程度の価格になることも珍しくない
(2) 十分な検討時間の不足:
- 急いで売却を決めることで、他の選択肢(賃貸活用、リノベーションなど)を十分に検討する時間が取れない可能性アリ
(3) 買主との交渉力の低下:
- 売主が急いでいることを買主側に悟られると、価格交渉で不利な立場に立たされる可能性アリ
(4) 不適切な売却方法の選択リスク:
- 早期売却を急ぐあまり、適切な売却方法(仲介、買取など)の比較検討が不十分になる可能性アリ
(5) 将来の価値上昇機会の喪失:
- 将来的に不動産価値が上昇する可能性がある場合、その機会を逃してしまう可能性アリ
結論:早期の意思決定と専門家の活用が重要です
空き家問題に対処する上で最も重要なのは、早期の意思決定です。
2023年の法改正により、より多くの選択肢と支援策が用意されましたが、その活用に当たっては、以下のステップを踏むことをお勧めします。
- 財産の棚卸しを行う
- 資産価値を正確に把握する
- 家族で空き家の将来について話し合う
- 地域の空き家等対策計画を確認する
- 空き家等管理活用支援法人などの専門家に相談する
- 最適な対策を選択し、実行する
空き家問題は個人の問題だけでなく、社会全体の課題でもあるので、最新の法制度を活用し、地域社会と連携しながら、適切な対策を講じることが重要です。
そのためにも、早期の対応と専門家の活用によって、空き家の価値を最大限に引き出すことで、結果的に地域社会の維持発展に貢献できるでしょう。
ただ、いずれの方法・対策をとるにしても、大事なのは「空き家をどうするのか」ということについて早めの意思決定をすることです。
そのためには財産を棚卸したうえで、資産価値をしっかり把握し、相続や財産の処分がスムーズに進むようにしておくことが大事です。
資産価値の正確な把握に際して、専門家の意見を確認したいのでしたら、あらゆる不動産の評価に強い村本不動産鑑定士事務所にご連絡・ご相談ください。
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