この記事を書いている時点(2024年10月)は、利便性に富む都心部を中心に「地価の上昇」の傾向が見受けられます。
そして、この地価上昇を理由に、賃貸物件の賃貸人(オーナー側)が、賃借人(テナント側)に対して、その物件の契約更新のタイミングで家賃の値上げを言い渡すことが想定されます。
なぜ「地価の上昇」が家賃の値上げにつながるのでしょうか?また、賃借を続けようと思ったら、家賃の値上げに応じるほかないのでしょうか?交渉の余地はないのでしょうか?
この点について解説します。
地価の上昇は「家賃値上げ理由になる」
借地借家法32条1項は、建物の賃料が次の(1)~(3)の事情がある場合には、契約の条件にかかわらず、当事者が将来の賃料増減を請求することができる旨定めています。
(1)土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
(2)土地もしくは建物の価格の上昇もしくは低下その他の経済事情の変動
(3)近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、
地価の上昇は条文が規定する場合に当たりますので、現実に上昇している場合、家賃値上げの理由となり得ます。
なお、家賃の値上げができないケースとしては、
- 上記のような正当な理由がなく、単に家賃収入を増やすためだけの値上げは「不当な値上げ」とされます。
- 現行の賃貸借契約で「一定期間は家賃の増減を行わない」という条件が付されていれば、その期間内に固定資産税などの負担が増加したり、周辺相場が上がったとしても、値上げはできません。
- 近傍同種の家賃相場が値上がりした程度以上の大幅な値上がりはできません。
家賃の値上げに応じないで、賃借することはできるの?
賃借し続けること自体はできます。
借地借家法には、合意による更新をしない場合も、従前と同じ条件で現在の契約が更新されるという「法定更新」があります。
法定更新というのは、家賃値上げという契約内容の更新に関する同意が契約終了までになされなかった場合、借地借家法に基づいてこれまでの契約内容・条件で契約が自動で更新されることで、更新後は期間の定めのない契約となります。
この法定更新により、オーナー側はテナントが値上げに応じなくても、賃貸借契約を満了時に終了させたり一方的に解除するようなことはできません。
家賃値上げの要求に対して交渉の余地はないの?
交渉の余地もあります。
特別な資料や根拠がなくても、個人的な理由(例.物価が上がっているけど収入が増えないので経済的に余裕がなく、家賃の値上げも少額しか応じられないといったもの)でも、交渉材料とならないわけではありません。
ただ、交渉が折り合わない場合、オーナー側から正式に賃料増額請求を受ける可能性があります。
正式に賃料増額請求を受けたら、その額を支払うしかないの?
一定の時期までは、これまでの賃料額の支払いで構いません。
賃料増額請求は、一方的な意思表示で適正賃料額への変更の効力が発生するものです。
ただし、当事者双方が納得せずに争いがある場合、いくらが適正な賃料額なのかは調停や裁判で決まります。
つまり、オーナー側がテナント側に対して、口頭や内容証明郵便で一方的に通知を送ったとしても、賃料が増額されるわけではありません。
そして、当事者間で協議が整わない場合、増額請求を受けても増額を正当とする裁判が確定するまで、テナント側は相当と認める額を供託所(通常は各地方法務局)に支払うことで足ります。
増額請求を受けても、これまでの賃料額を支払えば問題ありません(これを「供託制度」と言います)。
ただ、後々、調停や裁判の場で賃料増額(オーナー側の主張)が認められた場合、効果は増額請求を受けた時点にさかのぼって、不足額に年1割の利息を付して支払う必要が発生する点は意識しておかないといけません。
先々のことを考えて「オーナー側に貸しを作る」のもアリかもしれません
この記事を作成している時点での経済状況をみると、利便性に富む都心部を中心に「地価の上昇」はあると予想されますし、これを理由とした家賃の増額を認める条件が整いやすい状況です。
そして、オーナー側の増額請求が認められた場合、期間をさかのぼって利息を付した支払いが発生するリスクを考えるならば、当初の家賃の値上げ交渉の段階で歩み寄った検討をした方がいいかもしれません。
もちろん、現行の家賃水準から大幅な値上げであるならば、「抵抗」する価値はあるかもしれません。
ただ、値上げの程度が少額と判断されるのでしたら、オーナー側の提案に応じることを検討しても良いのでは?
というのも、オーナー側の要請に応じて、家賃を値上げしたという実績を残せば、「オーナー側に貸しを作った」として、将来の大幅な値上げ要請があった際に有利な交渉ができるかもしれないからです。
オーナー側との交渉にあたって「準備」は必要
なお、オーナー側との交渉に何の準備もなく臨んでも、話は平行線のままで、場合によってはトラブルが大きくなるかもしれませんし、裁判となるとお互いに負担も大きくなります。
- オーナー側が家賃の値上げを言い渡してきた根拠の検証
- 該当物件の周辺の適正な家賃相場は、どの程度なのかの確認
- オーナー側が提示した値上げ後の家賃水準の是非
このあたりの事項をしっかりと抑えて、オーナー側と同じ情報量を確保した上で、交渉することがトラブル回避のために肝要です。
場合によっては、このような情報を示すことでオーナー側が家賃の値上げをあきらめる(もしくは値上げの程度を抑える)ケースもあり得ます。
とにかく安易に妥協しないことが大事です。
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